従業員は、魅力的な給与、希望に合ったポジション、あるいは新しいキャリアの機会をきっかけに入社することがあります。しかし、なぜその会社で何年も働き続けたいと思うのでしょうか?
これは簡単には答えられない問いです。
なぜなら、従業員の定着は収入だけで決まるものではないからです。働く中で、従業員はさまざまなことを経験します。会社からどのように扱われているか、上司との関係、成長の機会、必要なサポートを受けられているか、そして自分の仕事に意味を感じられているかなどです。
人事管理や組織行動の分野における多くの研究でも、仕事への満足度、組織からのサポート、公平性、成長機会、そして従業員と企業との適合度が、従業員の定着や離職意向と関連していることが示されています。
では、企業は従業員に「入社したい」と思ってもらうだけでなく、「ここで働き続けたい」と思ってもらうために何ができるのでしょうか?
この記事を通して、従業員の定着に関わる要素と、VAON Vietnamが目指す職場づくりについてご紹介します。
目次
- 仕事への満足度:この仕事は自分に合っていると感じられるか?
- 組織からのサポート:自分の声を聞いてもらい、支えてもらえているか?
- 尊重と公平性:自分の価値に見合った扱いを受けているか?
- 成長の機会:ここで自分自身をさらに成長させられるか?
- VAON:従業員が長く働き続けたいと思える職場づくり
1. 仕事への満足度:この仕事は自分に合っていると感じられるか?
従業員の定着について考えるとき、多くの企業は次のような問いから始めることがあります。
「従業員に残ってもらうために、給与をあとどれくらい上げればいいのだろう?」
しかし、同じくらい重要な問いがあります。
「従業員は、自分の仕事に満足しているだろうか?」
仕事への満足度とは、従業員が常に楽しく働いていることや、仕事にプレッシャーがないことを意味するものではありません。
それは、自分の仕事における経験をどのように評価しているかということです。仕事が期待に合っているか、職場環境はどうか、同僚や上司との関係はどうか、成長する機会があるか、といったさまざまな要素が含まれます。
研究では何が示されているのか?
**「IT人材の離職意向に関連する要因に関する研究」**において、**Ahmet Hakan Özkan(2021)**は、1998年から2019年に発表された3,844件の研究をもとに、数千人の参加者を対象としたデータを統合・分析しました。
その結果、仕事への満足度と組織へのコミットメントはいずれも、IT人材の離職意向と有意な関連があることが示されました。この研究では、仕事への満足度と離職意向の相関係数は r = −0.50、組織へのコミットメントと離職意向の相関係数は r = −0.51 でした。
簡単に言えば、従業員が仕事により満足し、組織とのつながりをより強く感じているほど、離職したいという傾向は低くなるということです。
これは、従業員の定着を考える際に、給与制度だけを見るのでは十分ではないことを示しています。
企業は、より基本的な問いにも目を向ける必要があります。
「従業員は、日々の仕事を通じた経験に満足しているだろうか?」
給与が良い仕事であっても、従業員が「十分なサポートを受けられていない」「自分の声が聞かれていない」「自分の仕事の価値を感じられない」と日常的に感じていれば、組織への定着に影響する可能性があります。
2. 組織からのサポート:自分の声を聞いてもらい、支えてもらえているか?
少し従業員の立場になって考えてみましょう。
仕事で困ったとき、誰に相談すればよいか分かっていますか?
相談したい問題があるとき、安心して話すことができますか?
プライベートで仕事に影響するような変化があったとき、会社は話を聞き、サポートする方法を一緒に考えてくれるでしょうか?
これは、**Perceived Organizational Support(POS:組織からのサポートに対する従業員の認知)**という概念の一部です。これは、従業員が「組織は自分の貢献を大切にし、自分のことを気にかけてくれている」とどの程度感じているかを表します。
研究では何が示されているのか?
**Robert J. Riggle、Diane R. Edmondson、John D. Hansen(2009)**による、組織からのサポートと仕事上の成果との関係に関する研究では、Perceived Organizational Supportについて20年間にわたる研究が統合されています。
その結果、従業員が認識する組織からのサポートは、仕事への満足度や組織へのコミットメントと強い正の関連があり、一方で離職意向とは強い負の関連があることが示されました。
つまり、「サポート」は単なる感覚的な概念ではありません。
具体的には、次のような形で表すことができます。
- 管理職が従業員の困りごとに耳を傾ける。
- 従業員が意見や相談を伝えられる窓口がある。
- 従業員が特別な事情を抱えた際に、会社からサポートを受けられる。
- 従業員の貢献が認められる。
- 仕事を完遂するために必要なサポートを受けられる。
- 仕事と生活のバランスについて会社が配慮する。
特に、「話を聞く」ということは、従業員のすべての要望に応えることを意味するものではありません。
話を聞くことは、まず実際の問題を理解し、そのうえで適切な解決策を考えるための第一歩です。
そして、ときには従業員が、
「自分の問題を話すことができ、誰かがきちんと聞いてくれる」
と感じられること自体が、働く上で重要な経験になります。
3. 尊重と公平性:自分の価値に見合った扱いを受けているか?
福利厚生が充実している環境であっても、従業員が「自分は尊重されていない」と感じるのであれば、必ずしも長く働きたいと思える職場になるとは限りません。
職場における「尊重」は、単なるコミュニケーションの方法だけに表れるものではありません。
例えば、次のような場面にも表れます。
- 従業員の意見をどのように受け止めるか。
- 管理職がどのようにフィードバックを行うか。
- 評価の透明性。
- 仕事や機会をどのように配分するか。
- 従業員の貢献をどのように認めるか。
- ミスに対してどのように対応するか。
- 従業員の時間やプライベートをどのように尊重するか。
研究では何が示されているのか?
**Stefan Gaertner(1999)**による「離職モデルにおける仕事への満足度と組織へのコミットメントに影響する構造的要因」に関する研究では、組織環境におけるさまざまな要因と、仕事への満足度および組織へのコミットメントとの関係が分析されています。
その結果、分配の公平性、昇進の機会、上司からのサポートは、仕事への満足度を介した影響だけでなく、従業員の組織へのコミットメントとも直接的な関連があることが示されました。
つまり、従業員が考えているのは、
「自分は何を得られるのか?」
だけではありません。
同時に、
「自分はどのように扱われているのか?」
も重要なのです。
同じ給与を受け取っている2人の従業員でも、一方が「自分の意見を聞いてもらえる」「貢献を認めてもらえる」「公平に扱われている」と感じていれば、その職場に対する経験は大きく異なる可能性があります。
そのため、尊重とは一つの特別な活動ではありません。
それは、企業が日々どのように従業員と接するかによって表れるものです。
4. 成長の機会:ここで自分自身をさらに成長させられるか?
しばらく働いた従業員が、次のような問いを持つことがあります。
「もしこの会社であと2~3年働き続けたら、自分はどのように成長しているだろうか?」
誰もが管理職になることを目標としているわけではありません。
しかし、多くの人は昨日の自分より少しでも成長したいと考えています。
例えば、
- 新しい知識を身につける。
- 新しいスキルを習得する。
- 新しい仕事に挑戦する。
- より大きな責任を任される。
- キャリアパスをより明確にする。
- 改善すべき点を知るためのフィードバックを受ける。
- 経験豊富な人から学ぶ機会を得る。
などです。
**Stefan Gaertner(1999)**の研究でも、昇進の機会はorganizational commitment(組織へのコミットメント)と直接的な関連を持つ要因の一つであることが示されています。
また、**Michelle L. Verquer、Terry A. Beehr、Stephen H. Wagner(2003)**による「個人と組織の適合性と仕事上の態度との関係」に関する研究では、21件の研究を統合し、個人と組織の適合度と、仕事への満足度、組織へのコミットメント、離職意向との関係を分析しています。その結果、個人と組織の適合度は、これら3つの要素すべてと関連していることが示されました。
これは、成長とは単に役職や肩書きだけの話ではないことを示しています。
従業員は、自分が前に進んでいると感じられることを必要としています。その進歩は、さまざまな形で表れる可能性があります。
新しいスキルを学ぶこと、新しいプロジェクトを任されること、自分で判断できる範囲が広がること、あるいは自分のキャリアについてより明確に理解できることも、その一つです。
「ここで学び、成長している」と感じられる環境には、従業員が働き続けるための、とても現実的な理由があります。
「ここには、まだ学べることも、達成できることもたくさんある。」
5. VAON:従業員が長く働き続けたいと思える職場づくり
ここまでの研究から、従業員の定着は一つの要素だけで決まるものではないことが分かります。
給与や報酬は重要です。福利厚生も重要です。そして、成長の機会も非常に重要です。
しかし、そのほかにも数字だけでは測りにくいものがあります。
「会社から大切にされている」と感じること。
これは、VAONが職場環境をつくっていく上でも大切にしていることです。
給与・報酬、福利厚生、成長機会といった要素に加えて、VAONは従業員にとってより良い職場環境をつくることを目指しています。
常に従業員の声に耳を傾ける
VAONは、HRを単に会社の制度や方針を伝える部門ではなく、従業員と会社をつなぐ架け橋でありたいと考えています。
従業員からのフィードバック、提案、困りごとは、実際の働く環境をより深く理解するための重要な情報です。
すべての提案をすぐに実現できるわけではありません。
しかし、従業員の声を聞き、真剣に向き合い、フィードバックすることをVAONは大切にしていきたいと考えています。
なぜなら、良い職場とは「問題がない場所」ではなく、問題について話し合い、一緒に解決策を考えられる場所だからです。
従業員がより良く働ける環境をつくる
良い制度は、文書の中に書かれているだけでは十分ではありません。
従業員が実際の仕事の中で直面している問題を解決できるものである必要があります。
そのためVAONは、従業員が仕事をしっかりと遂行し、同僚と効果的に協力し、仕事と生活のバランスをより良く保てるような職場環境や制度づくりを目指しています。
従業員を尊重する
一人ひとりの従業員には、それぞれ異なる能力、状況、キャリアの方向性があります。
VAONは、従業員がコミュニケーション、仕事、そして自分の貢献を尊重される環境を目指しています。
尊重するということは、制度の透明性、コミュニケーションの明確さ、そして異なる意見に耳を傾けることにも表れます。
福利厚生制度を継続的に改善する
福利厚生は、単に資料に並べられた「権利・特典の一覧」であるべきではありません。
VAONが目指しているのは、仕事のサポート、休息、生活面への配慮、成長やチームのつながりを支える活動など、従業員にとって実際に価値のある制度をつくることです。
企業の成長段階や従業員の世代によって、必要とされるものは変化します。
だからこそ、人事制度も従業員の声を聞き、評価し、継続的に改善していくことが必要です。
まとめ
最後に、企業は単に、
「どうすれば従業員が辞めないようにできるか?」
と考えるだけではなく、
「従業員がここで働き続けたいと思えるために、私たちは何ができるだろうか?」
という問いを持つことが大切なのかもしれません。
この2つの問いは似ているように見えますが、アプローチは大きく異なります。
一方は、**「人を引き留めること」**に焦点を当てています。
もう一方は、**「人がここにいたいと思える環境をつくること」**に焦点を当てています。
VAONにとって、それは一見シンプルに見えることの積み重ねです。
従業員の声に耳を傾けること。
従業員を尊重すること。
仕事と生活の両面で従業員をサポートすること。
従業員が成長できる環境をつくること。
そして、実際の価値を生み出す制度を継続的に改善すること。
なぜなら、従業員が長く働き続ける理由は、会社が何を与えてくれるかだけではないからです。
従業員が次のように感じられることも重要です。
「自分の貢献が認められている。自分が必要としていることに耳を傾けてもらえる。そして、ここでこれからも成長していける。」
参考文献
- Riggle, R. J., Edmondson, D. R., & Hansen, J. D. (2009). A meta-analysis of the relationship between perceived organizational support and job outcomes: 20 years of research. Journal of Business Research, 62(10), 1027–1030.
- Özkan, A. H. (2021). A meta-analysis of the variables related to turnover intention among IT personnel. Kybernetes, 51(4), 1584–1600.
- Gaertner, S. (1999). Structural Determinants of Job Satisfaction and Organizational Commitment in Turnover Models. Human Resource Management Review, 9(4), 479–493.
- Verquer, M. L., Beehr, T. A., & Wagner, S. H. (2003). A meta-analysis of relations between person–organization fit and work attitudes. Journal of Vocational Behavior, 63(3), 473–489.