AIチャットボットの導入は、なぜセキュリティ審査で止まるのか
AIチャットボットの導入が止まる理由は、多くの場合、技術ではありません。経営層からの「社内の資料やお客様の情報は、どこに送られるのか」という問いに、十分具体的に答えられないことです。担当者は、問い合わせ対応の負担が減ることを分かっていても、法務や情報セキュリティの部門を納得させる材料がそろっていません。
「提供会社がセキュリティを約束している」という説明だけでは、承認は下りません。承認する側が知りたいのは、データの保存場所、鍵を持つのは誰か、学習に使われるのか、利用をやめたときに削除できるのか、といった具体的な点です。どれか一つでも答えがないと、稟議は差し戻されがちです。
SaaS型AIチャットボットでは、データはどこを通るのか
RAG(Retrieval-Augmented Generation、検索した資料をもとに回答を作る仕組み)を使ったSaaS型のチャットボットでは、データは一般に次の4つの段階を通ります。
1. **資料の取り込み:** PDF、Excel、Word、Webサイトの内容を取り込み、検索しやすい単位に分けます。
2. **保存:** 資料と検索用のデータを、サービスのサーバーに保存します。
3. **検索と回答の生成:** 質問が来ると関連する箇所を探し、質問とその箇所を大規模言語モデル(LLM)に渡して回答を作ります。
4. **回答の配信:** LINEやWebサイトのチャット画面を通じて、利用者に回答を届けます。
段階ごとに、確認すべきセキュリティ上の論点があります。AIチャットボットを評価するとは、紹介ページの「高いセキュリティ」という一文を読むことではなく、この4つの段階を順に確かめることです。
提供会社に確認したい5つの質問
以下の5つは、上の4段階に沿った質問です。そのまま提供会社へのメールにコピー&ペーストして使っていただけます。
1. データはどの国の、誰の基盤に保存されますか?
- 確認する理由: 個人データの国外移転に関する規律に関わるため。
2. データにアクセスする鍵は誰が持ちますか?提供会社はデータを閲覧できますか?
- 確認する理由: 実際にデータを管理しているのが誰かが決まるため。
3. 入力したデータは、モデルの学習に使われますか?
- 確認する理由: 社内資料の内容が別の場所に現れるおそれがあるため。
4. 通信は暗号化されていますか?どの方式ですか?
- 確認する理由: 通信途中での盗み見のリスクがあるため。
5. 資料にない質問が来たとき、チャットボットはどう答えますか?
- 確認する理由: 誤った回答は、情報漏えいと同じように損害につながり得るため。
注意点: 5つ目の質問は見落とされがちです。契約条件や返品の規定について、もっともらしく誤った回答をするチャットボットも、法務部門が気にするリスクの一つです。
ONEBOTは5つの質問にどう対応しているか
ONEBOTは、VAONが日本企業向けに開発したSaaS型の顧客対応AIチャットボットです。お客様のPDF、Excel、Word、Webサイトの内容をもとに、LINE公式アカウントとWebサイトのチャット画面で回答します。

ONEBOTは、ロールベースのアクセス制御(RBAC)にも対応しており、利用者のグループごとに回答の元になる資料を制限できます。このほか、稼働率99.5%のSLAを設けており、導入期間は2〜4週間です。料金は月額固定のプラン(月額15,000円から)で、プランの会話数を超えた分だけメッセージ単位で費用が発生します。完全な従量課金に比べて、予算の見通しを立てやすい形です。
一点、明確にしておきます。SaaS型のONEBOTは、回答を作るために、質問と関連する資料の一部をインターネット経由でLLMに送ります。また、LINE自体もインターネット上のサービスです。SaaS型のONEBOTは「データが一切社外に出ない」仕組みではありません。
SaaSより社内ネットワーク内での構築を選ぶべき場合
暗号化されていても、データがインターネットを通ること自体を社内規程が認めていない場合は、社内ネットワーク内(オンプレミスや閉域網)での構築が向いています。VAONは、ONEBOTのSaaSプランとは別に、[AI・自動化サービス](/ja/services/ai-automation)の個別開発として、社内ネットワーク内で動くRAGチャットボットの構築をお引き受けしています。

社内ネットワーク内での構築は、データの通り道を自社で管理できる一方、運用の負担と、自社の機器で動かせるモデルの限界を受け入れる必要があります。そのため私たちは、まず小さなPoC(概念実証)で回答の品質を測ってから判断していただくことをおすすめしています。
なお、お客様にAIチャットボットを提供したいSIer・代理店様向けに、ONEBOTを自社ブランドで提供できるOEMプログラムもご用意しています。その場合も、3章の質問は同じように当てはまります。エンドユーザーのお客様も、まさに同じことを確認されるためです。
SaaS型のONEBOTが向かない場合
SaaS型のONEBOTは、次の2つの場合には向きません。
1. 社内規程やお客様との契約で、データをインターネットに出すことが一切認められていない場合。5章の社内ネットワーク内での構築をご検討ください。
2. 提供した資料にない質問にも答えてほしい場合。ONEBOTは推測で答えず、担当者に引き継ぐ設計です。
また、システムの構成だけで、個人情報保護法(APPI)への対応が完結するわけではありません。構成によって社外に出るデータの範囲を狭めることはできますが、取り扱うデータの種類に応じた法務面の確認は、別途必要です。